US 版 Think with Google が 2026 年 4 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
ミハウ・プロタシウクは、Google の欧州、中東、アフリカエリアを担当するリサーチャーです。企業の広告投資の効果をより正確に、そして全体像をしっかりと把握しながら測定するためのアプローチを専門に研究しています。
マーケターの 42% が、今年のマーケティング予算の減少を予測している(英語)ように、現在、非常に厳しいビジネス環境に直面しています。投資の成果を証明しなければならないというプレッシャーは限界に達しているのにもかかわらず、多くのマーケターにとって、そのための効果的な手段は、いまだ見出されていません。
過去 3 年間で 71% のマーケターが効果測定への注力を強めている(*1)と回答しているものの、そこには大きな「認識のギャップ(明確な指針の欠如)」が生じています。実際に、44% のマーケターは、自社内でマーケティングの効果測定が明確な業務プロセスとして確立されていない(*1)と感じています。こうした不確実性は、企業が長期的な成長要因から目を背け、すぐに測定できる手堅い指標へと逃げ込む短期主義(英語)に陥る原因となっています。
ギャップを埋めるため、Google とデータ分析企業の Ekimetrics は、強いプレッシャーのかかる環境であっても事業成長を確保するための指針を構築しました。どんな投資にも共通する法則を理解することで、マーケターは根拠のない予算上限から脱却し、需要主導型の戦略へとシフトすることができます。
S 字カーブの法則
投資額と収益の関係は直線ではありません。それは S 字型の「サチュレーションカーブ(飽和曲線)」の法則に従っており、投じた 1 ドルが曲線のどこに位置するかによって、得られる成果は異なります。
- 横軸は「投資量」を示します。マーケティングの文脈では、広告費用や広告の出稿規模、あるいはメディアへの注力度合いを示すその他の指標など、投下されたリソースを指します。
- 縦軸は「リターン」を示します。これは目指すべき成果を意味します。一般的には、短期的または長期的な純増の売上や収益を指しますが、ブランドの認知度、ウェブサイトのエンゲージメント、リード獲得といった他の主要な指標(KPI)になる場合もあります。
サチュレーションカーブには、マーケティング投資のインパクトを示す 5 つの重要な「ゾーン」があります。
- ウェアイン(導入)ゾーン:初期段階の抵抗感や認知度構築の必要性、購入サイクルの長さにより、投資額に対して収益の伸びが緩やかな状態です。規模を拡大するために、非効率な状態を乗り越えて投資を続けている段階です。
- アクセラレーション(加速)ゾーン:損益分岐点を超えた状態です。追加の投資が利益(*2)を生み出し始め、段階を追うごとに効率が向上していきます。最も急激な成長を見せる時期です。
- エフィシエンシー(効率)ゾーン:投資に対して追加で得られる成果が鈍化(減少)し始める変曲点を過ぎていますが、それでもリターンは高く全体の平均広告費用対効果(ROAS)を押し上げています。
- コントリビューション(貢献)ゾーン:全体の ROAS がピークに達して下降し始めていますが、追加の投資は依然として収益と利益を増加させています。市場シェアと総収益を最大化するために、効率の低下を許容する段階です。
- サチュレーション(飽和)ゾーン:投資効果の低下が完全に進行し、曲線が平坦になった状態です。次の売上を獲得するためのコストが、そこから得られる収益を上回ってしまいます。これ以上の投資は利益を損なうため、投資を見合わせるのが賢明です。
サチュレーションカーブは意思決定者に 2 つの視点をもたらし、異なる 2 つのレベルでの最適化を可能にします。第一に、個別のメディアチャネルのレベルでは、どのチャネルが飽和状態に達し、どのチャネルにまだ投資の伸びしろがあるのかを特定します。
第二に、予算全体のレベルでは、短期的・長期的な成果(英語)やブランド・エクイティ(英語)への影響を考慮しながら、収益において最も重要な全体像を可視化できるため、CMO による投資全体の最適化へとつながります。
ROAS の先を見据え、総収益を最大化する
マーケターにとって ROAS が非常に重要であることに変わりはありませんが、よくある失敗は、ROAS が最高値に達する効率のピークで全体的な投資を止めてしまうことです。スプレッドシート上では見栄えが良いかもしれませんが、これでは得られるはずの大きな収益を取りこぼしてしまいます。
本来の目的は、投資全体の ROAS ではなく、追加投資のどの一単位においても ROAS が最大化していること、つまり純増売上を最大化することです。そのためには、投資を「コントリビューションゾーン」まで押し上げる必要があります。
このシナリオでは、全体的な ROAS のわずかな低下は、コントリビューションゾーンにおける投資が純増売上の総量を引き続き成長させていることの裏付けとなります。リターンが利益の下限(追加投資 1 ドルに対する ROAS が 1 を超える水準)を上回っている限り、財務的に合理的な唯一の判断は投資を続けることです。
多くの企業はまだ飽和点に達していない
Ekimetrics との共同調査によると、コスト削減のプレッシャーにもかかわらず、ほとんどの企業は「サチュレーションゾーン」には程遠い状態にあります。需要主導型モデルへと移行する意思さえあれば、そこには計り知れない伸びしろが存在しています。
小売業界を例に見てみましょう。ヨーロッパにおけるマーケティング ミックス モデリング(MMM)研究のメタ分析によると、以下の事実が明らかになりました。
- 平均的な小売ブランドの場合、売上には依然として伸びしろがあり、飽和点(追加投資 1 ドルに対する ROAS が 1 を下回る水準)に達するまでに、広告投資を理論上最大 329% 増加させる余地がありました(*3)。
- 特に検索広告においては、平均的な小売ブランドは飽和点に達するまでに、理論上 830% も投資を拡大できることがわかりました(*3)。
自社の成長ポテンシャルを「知る」
自社のマーケティングにおけるサチュレーションカーブをマッピングすることで、予算を「見積もる」状態から、自社の成長ポテンシャルを「知っている」状態へと移行できます。同業者の 42% が予算の縮小を見込んでいるこの時代において、投じた 1 ドルが曲線のどこに位置するのかを理解しているマーケターこそが、競合が取りこぼしている需要を獲得できるのです。
この概念は、検索広告において最も顕著に表れます。投資は、根拠なく固定された予算上限ではなく、リアルタイムの消費者のインテントに基づいて行われるべきです。もし自社の広告予算が午後 7 時で配信を停止する設定になっていたとしても、顧客が深夜まで買い物を続けているとすれば、それは経費を節約しているのではなく、競合の成長を支援しているにすぎません。
需要主導型モデルを取り入れることで、P-MAX キャンペーンやデマンド ジェネレーション キャンペーンのような Google の AI ソリューションが機能し、ROAS に固執した固定予算では見落とされがちな質の高いコンバージョン獲得の機会を見つけ出すことが可能になります。
曲線に沿って進むだけでなく、曲線そのものを引き上げる
優れたマーケターの決定的な特徴は、単に曲線上の最適なポイントを見つける能力だけでなく、曲線全体を引き上げるビジョンを持っていることです。
投資を増やすほど、横軸に沿って右へ移動します(結果として利益が減少する可能性があります)が、クリエイティブの質やクロスチャネルの相乗効果といった戦略的なテコ入れは、曲線全体を上方にシフトさせます。これにより、まったく同じ投資額でも、より多くの売上を生み出すことが可能になります。
たとえば私たちの調査では、現在の投資規模において、小売業界の広告主が短期的な総 ROAS を最大化するためには、平均して検索広告の費用を 70% 増加させるべきだったことが示されています(*3)。
成功は、根拠のない予算上限の枠を超えて、純増売上を確実に取り込もうとする人々の手に委ねられています。ただ道なりに進むだけでなく、道を舗装し直し、より速いスピードとより高い効率で、市場の成長ポテンシャルを余すところなく捉えていきましょう。
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