「とりあえず、AI に聞いてみよう」——そんな一言が、日常になりつつあります。AI が普及することで、生活者の情報探索や消費行動はどう変わっているのでしょうか。
Google のコンシューマーマーケットインサイトチームはこの問いに向き合いました。6 種類の調査を重ねて見えてきた答えは、次のようなものです。
生活者は、買うものが決まる前の漠然とした「もやもや」の段階から AI に相談し、対話を重ねながら買い物を決めるようになっています。そしてその対話の中では、「共鳴(High Resonance)」と「解像度(High Resolution)」という 2 つの要素が、やり取りを重ねるごとに徐々に高まっていったのです。私たちはこの新しい消費行動を「ハイレゾ消費」と名付けました。
今回は、この変化の実態をデータでたどります。
AI 利用の急増とともに、情報接触の総量も 5 年で 25% 増
まず、生活者の情報行動の全体で何が起きているのかを、ログデータから確認します。生成 AI の利用は 2024 年頃から右肩上がりに伸び続け、月に 1 回以上利用する人は 27.6% に達しました(2026 年 3 月時点)(*1)。
ここで注目したいのは、この伸びが「他のチャネルの時間を奪った」結果ではない、ということです。同調査によると、主要メディアへの 1 日あたりの総接触量は、過去 5 年間で 25% 増加しています。生成 AI は既存の情報行動を置き換えているのではなく、生活者の情報接触の総量そのものを押し上げているのです。
さらに言えば、対話による情報探索は、Gemini のような専用のチャットサービスの中だけの話ではなくなりつつあります。Google 検索の「AI モード」のように、検索インターフェースそのものが対話に対応し始めているからです。
「検索か、AI か」という 2 つのツールの使い分けは、境目のないシームレスな情報探索へと変わりつつあります。こうした実態を踏まえ、ここからは、対話型のチャットサービスと Google 検索の AI モードを合わせて「AI」と定義します。
買い物の意思決定にも、AI は使われ始めている
変化は情報収集にとどまりません。購入や契約という、お金の動く意思決定の場面でも AI が使われ始めています。
直近の購買・契約に至る過程で AI を利用した人は 24.3%。検索(47.5%)、ショッピングサイト/アプリ(44.9%)に次ぐ第 3 の情報源であり、すでに SNS(19.5%)や動画(16.4%)を上回っています(*2)。
しかも、買い物で AI を使っているのは、一部の先進的な若者だけではありません。カテゴリ別にユーザー構成を見ると、老若男女を問わず幅広い層に広がっています(*3)。
商材別では、転職・不動産・保険のように検討期間が長く条件が複雑な商材で、AI の利用率は 20 〜 30% に達します。一方で、家電・健康食品・パーソナルケアといった商材でも 10% 以上が利用しています(*3)。
50 代のある女性は、洗剤選びについてこう話しています。
AI を使った人は、選択に「自信」を持っている
では、AI を使った買い物は、生活者にとって何が違うのでしょうか。
調査した全 6 カテゴリで、AI ユーザーは非ユーザーよりも買い物での「自分の選択に自信を持っている」という結果になりました。さらに「自信につながった情報源」を尋ねると、全カテゴリで AI が 1 位(62 〜 71%)。AI との対話が選択に対する確信を後押ししていることが、生活者自身の回答からも裏付けられています(*4)。
なお、この「選択に対する自信の強度」は、私たちが 2022 年の調査で「肯定度」と名付けた概念と同じものです。
この自信は購入後にも影響を与えます。購入・契約後の継続利用意向は、全カテゴリで AI ユーザーが上回りました。AI との対話を経た買い物は、一時的な満足にとどまらず、ブランドとの長期的な関係につながっている可能性があるのです。
ここで新しい疑問が生まれます。AI を使うと、なぜ選択に「自信」が持てるのか。その答えは、生活者が AI と交わしている対話そのものの中にありました。
「もやもや」から始まる買い物 —— その正体が「ハイレゾ消費」
訪問調査で出会った、ある生活者の買い物を紹介します。
40 代のその女性が AI に投げかけたのは、「受験で疲れている娘に、何かできることは?」という一言でした。商品名も、商材カテゴリもない、いわば「もやもや」そのものです。AI とのやり取りの中で、彼女は想像もしていなかった「加重ブランケット」という答えに出会います。「見たことも聞いたこともないもの」でしたが、ニーズの輪郭が急にはっきりし、「もっと知りたい」と対話に気持ちが乗っていきます。最後は検索で実物の色や値段を確かめ、まずは同時に提案されたハーブティーやホットアイマスクなど、手頃な価格で試せるものから購入しました。
提案を「試してみたい」と思えた背景を探っていくと、彼女と AI との普段のやり取りが浮き彫りになりました。絵文字を使えば AI も絵文字で返してくれる。レシピのアレンジを伝えれば「その判断、大正解」と支持してくれる。そうしたやり取りを通じて彼女は AI をより身近に感じを覚え、「行きつけの店員さんが勧めてくれたものなら買おうかな」という感覚で今回も AI から提案された商品の購入に至りました。
この 1 つの買い物の中では、2 つの変化が同時に起きています。
1 つは、対話を重ねるほど、自分が本当に欲しかったものの解像度が上がっていくこと(High Resolution)。もう 1 つは、共感のやり取りが積み重なるにつれて、対話の文脈や熱量が同調し、共鳴していくこと(High Resonance)です。
論理(解像度)と情緒(共鳴)の両輪が回るとき、生活者は自信を持った選択にたどり着きます。頭文字の重なるこの 2 語から、私たちはこの新しい消費行動を「ハイレゾ消費」と名付けました。
信頼できる店員との会話の中で「自分のことを分かってくれている」と感じ、納得して買う——そうした体験は、これまでも存在していました。AI との対話は、その心理を大規模に、観測可能な形にした、と言えるのかもしれません。
次の記事では、この「ハイレゾ消費」の中身を解剖します。約 1,000 件の対話ログの分析から見えた「共感」が意思決定を 2.6 倍にするというデータ、生活者のニーズの解像度が上がっていく過程、そして企業が取り組むべき 3 つのアクションを紹介します。
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