US 版 Think with Google が 2026 年 3 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
カレン・ネルソン・フィールド氏は、メディア サイエンス分野で世界的に高く評価されている専門家であり、アテンション計測を専門とする企業 Amplified の創業者です。オーディエンス測定の博士号を持つ同氏は、学術界からキャリアをスタートし、リーチにとどまらず人間が実際にどれほどエンゲージメントしたかを測る、アテンション測定の先駆者となりました。
私はこれまで、人間のアテンションの研究にキャリアを捧げてきました。アテンションをどう獲得し、どう測定するのか、そしてその未来はどうなるのかという問いを探求し続けています。
その未来とは、ダッシュボードを増やしたりトラッキングを複雑にしたりすることではありません。人間の実際の行動を AI システムに深く組み込み、アテンション獲得という大変な作業を、自動的に AI に任せられるようにすることです。
私の探求が始まったのは、10 年以上前のことです。イタリアを訪れていた際、私は「すべてのリーチが同じ価値を持つわけではない」という概念を初めて提唱しました。この概念が生まれたきっかけは、世界的な大手消費財メーカーからの課題提起でした。そのメーカーは、当時の業界標準だった「画面の 50% のピクセルが 2 秒間表示される」という視認性に関する指標に強い不満を抱いていました。
多くの人が直感的に理解しているように、そのメーカーもまた、広告が技術的に画面に表示されているからといって、実際に人がそれを見ているとは限らないことに気づいていたのです。
Amplified での長年の研究(英語)を通して、広告が「配信されること」と実際に「見られること」の間には大きな乖離があることを証明しました。広告そのものではなく、生身の人間に目を向けるべきだと確信した瞬間でした。
親指の物理学:プラットフォームの特性を理解する
「Z 世代はアテンションの持続時間が短い」というように、アテンションはユーザー属性の問題として語られがちです。しかし、データはそうではないことを示しています。アテンションを左右するのは、プラットフォームのユーザー体験(UX)なのです。
私であれ、10 代の息子であれ、フィードをスクロールするときの行動は驚くほど似ています。なぜなら、どちらも同じ「親指の物理学」に支配されているからです。ユーザーは、スクロール速度やスキップ機能、インターフェースの限界といった物理的な制約から逃れることはできません。こうした制約によってアテンションが伸び縮みする状態を、私は「アテンションの弾力性」と呼んでいます。
この弾力性の観点から、プラットフォームは大きく 2 つに分類できます。
- 非弾力的なプラットフォーム:アテンションの伸びに限界があるプラットフォームです。UX が高速スクロール向けに設計されている場合、カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルで賞を獲得するような優れた広告であっても、数秒以上見られることはありません。長時間のパフォーマンスを披露するには、単純に舞台が狭すぎるのです。
- 弾力的なプラットフォーム:YouTube のようなプラットフォームには、よりアテンションの伸びしろがあります。基準となる時間は存在するものの、高品質なクリエイティブであれば視聴時間を大幅に延ばすことができます。
私はオーディエンスが離脱するプロセスを「アテンションの減衰」と呼んでいますが、すべてのプラットフォームにおいて同じペースで減衰するわけではありません。高速な SNS のフィードでは、減衰のカーブは急激に落ち込みます。一方、YouTube のようなプラットフォームではカーブが緩やかであり、情報を深く処理するために必要な、持続的なアテンションを得やすくなります。
ブランドの記憶を構築する 1.5 秒のハック術
優れたクリエイティブであっても、高速スクロールされるフィードの物理的制約そのものを変えることはできません。しかし、それをハックすることは可能です。以前は、記憶として定着させるための基準値を 2.5 秒としていましたが、最新の研究(英語)では、わずか 1.5 秒でブランドの記憶を定着させられることが判明しました。ただし、それには「アセットの認知容易性」が不可欠です。
アセットの認知容易性とは、人々がブランドを認識するスピードのことです。特定の色、形、音(英語)といった固有のブランドアセットを通じて、ロゴや名前を見なくても脳が瞬時にブランドを識別できるようにする、いわばアテンション獲得の裏技のような役割を果たします。
認知されやすいアセットを持たないブランドは、代償として「自ら課した関税」を払うことになります。瞬時にブランドを認識してもらえないため、その認識のためにデジタルフィードではめったに得られない長いアテンション時間を要します。つまり、独自性のない一般的な見せ方をしているがゆえに、余計な税金を払っているようなものなのです。
また、クリエイティビティ(特に感情に訴えかけるストーリーテリング)単体で、こうした物理的制約を回避できると考えるのも誤りです。もちろん、記憶の構造を築く上で感情がいかに強力であるかは承知しています。感情こそが、プラスアルファのアテンションを獲得する要素だからです。
しかし、ここに落とし穴があります。仮に 10 秒のアテンションを獲得できたとしても、ブランディングが弱かったり提示のタイミングが遅かったりすれば、実際の売上を逃してしまう可能性があるのです。
無限スクロールの世界において、感情に訴える表現はユーザーがスクロールを止める「一瞬のアテンション」を獲得し、ブランディングはそれを「成果」へと変換します。アセットの認知容易性がなければ、ユーザーを数秒間楽しませるだけで終わり、せっかく獲得したアテンションも、より有名な競合他社のものだと勘違いされてしまうでしょう。
不適切なデータからは、AI も不適切な結果しか生み出せない
Google 広告に組み込まれた Gemini のような AI を活用すれば(英語)、アテンションを獲得するキャンペーン構築の煩雑な作業を AI に任せることができます。
現在、多くの企業が日常業務に AI を導入していますが、AI が発揮するパフォーマンスは学習データ次第です(英語)。真のアテンションではなく、インプレッションのような間接的な指標で機械学習モデルをトレーニングしてしまうと、AI に歪んだ現実を教え込むことになります。
ユーザーが素早くスクロールし、アテンションが 2 秒未満で途切れてしまうプラットフォームでの 100 万インプレッションと、持続的なアテンションを集めやすいプラットフォームでの 100 万インプレッションとでは、まったく意味が異なります。しかし、単純なインプレッションのデータだけでトレーニングされた AI には、両者が同じものに見えてしまうのです。
解決策は、AI に対してより質の高いデータを与えることです。
カメラによる視線の計測や、身体的な反応のデータを使って測定される人間の「真のアテンション」こそが、AI の処理能力を現実の人間の行動と結びつけるために不可欠な、信頼できるシグナルとなります。
ユーザーがコンテンツを見ている様子を研究した結果、人のアテンションは非常に予測しやすいものであることがわかりました。YouTube で動画を視聴するときと、SNS のフィードをスクロールするときとでは、ユーザーの行動はまったく異なります。しかし、それぞれのプラットフォームごとの視聴パターンには明確な規則性があるのです。
スクロールの速度、スキップの仕組み、ユーザーの操作性といったプラットフォームの設計自体が、クリエイティブが効果を発揮する上で逃れられない物理的な制約を作り出しています。
こうしたアテンションの物理学は、予測可能なルールの集合体です。こうしたルールはコード化して、機械学習モデルに組み込むことができます。アテンションデータは、人間が実際に広告をどう見るのか、あるいはどう無視するのかを AI に学習させるための制約条件として機能します。
記憶は瞬きする間に定着し始める
このような未来は 10 年先の話ではなく、まさに今起きようとしています。マーケティングの AI ファースト化が加速する中、どのようなデータを入力するかがこれまで以上に重要になっています。その最初のステップは、単なる露出よりも人間のアテンションを重視するプロセスを取り入れることです。
そのためには、「キャンペーンでどれだけのインプレッションを獲得したか」ではなく、「質の高いアテンションを実際に何秒獲得できたか」へと意識を転換する必要があります。現代のマーケターの目標は、もはや 100 万人に広告を配信することではありません。広告が「見られ、理解され、記憶される」ことなのです。
これからのマーケターは、自らがアテンションの専門家になる必要はありません。システムが代わりにその役割を担ってくれる時代へ向かっているからです。
人間の実際の行動に基づいて AI をトレーニングすることで、広告の効率を高めるだけでなく、ブランドとユーザーとのつながりをより意味のあるものにするという、AI の真の可能性を引き出すことができます。なぜなら、最終的にブランドの成長を促すのは「記憶」であり、その記憶は瞬きするほどの短い間に定着し始めるからです。
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