Chime のヴィニート・メーラ CMO
US 版 Think with Google が 2025 年 12 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
米フィンテック企業 Chime の CMO、ヴィニート・メーラ氏にとって、現代は「マーケティングの真の黄金時代」です。同氏によれば、「かつてないほど多様なツール、データ、リーチ、クリエイティブな可能性を手にしている」状況にあります。
私たちはメーラ氏に、2035 年に CMO が成功するために、どのようなスキルが必要になるのか、未来の展望を尋ねました。今後 10 年で CMO がマスターすべき重要な役割として、メーラ氏は以下の 5 つを挙げています。
- 財務戦略家(Financial Strategist)
- AI 指揮者(AI Conductor)
- 才能を最大化させるリーダー(Talent Multiplier)
- コミュニティの設計者(Community Architect)
- 文化の解読者(Cultural Decoder)
これらは、同氏が Chime のマーケティング部門の土台として築き上げてきた要素であり、持続的な成功に向けて自身の役割を再定義しようとするすべての CMO にとっての、確かな道筋となるでしょう。
1:財務戦略家:直感を定量化し、最適な資本配分をする
2035 年の CMO にとっても、効率的な成長を牽引するという使命は最優先事項であり続けるでしょう。そのためには、マーケティング予算を単なる経費としてではなく、リターンを生む投資として管理することが求められます。「CMO は多くの場合、社内で特に大きな予算を管理する立場にあります。だからこそ、私は CFO と密に連携し、投じた投資の回収期間や投資対効果(ROI)について、常に目線を合わせるようにしています」(メーラ氏)
財務戦略家の視点を持つ CMO は、ブランド構築とダイレクトレスポンスを対立するものとして扱うのではなく、これらを統合された 1 つの投資ポートフォリオとして捉えます。この考え方では、ブランドへの投資が将来の需要を醸成し、ダイレクトレスポンスはその需要を確実に取り込む役割を担います。これにより、マーケティングのすべての予算が、経営陣と合意した明確な財務上の成果へと結びつくようになるのです。
こうした緻密なアプローチは、企業を「顧客獲得単価(CAC)の死の谷」から守ってくれます。CAC の死の谷とは、ブランド構築をおろそかにすることでブランドへの関心層が枯渇し、結果として CAC が際限なく跳ね上がってしまうことです。
これを回避するために、メーラ氏は「パフォーマンス・ストーリーテリング」と呼ぶ手法を取り入れています。これは、ブランド構築とダイレクトレスポンスを、効率的で長期的な成長に欠かせない、切り離せない要素として定義するものです。
「重要なのは、ブランド投資の半減期(持続期間)と、それがダイレクトレスポンスにどのような影響を与えるかを把握するための測定モデルを持つことです。そして、ブランドに対する関心を、ダイレクトレスポンスというエンジンに効率よく供給し続けるために、そのモデルを活用するのです」(メーラ氏)
このパフォーマンス・ストーリーテリングが成長を大きく牽引し、創業 13 年の Chime は 2025 年に株式上場を果たすまでに至りました。同社のダイレクトレスポンスは極めて効率的に機能しているだけでなく、ユーザーからも深く愛されており、TIME 誌のランキング(英語)では満点評価を獲得しました。
2:AI 指揮者:人の才能とテクノロジーの調和
2035 年を見据え、CMO はクリエイティブな人材と高度な自動化を組み合わせた統合エコシステム全体を指揮する役割へと進化すると、メーラ氏は見込んでいます。
この考え方では、高度なツールがクリエイティブの試作からメディアの最適化、コンプライアンスやカスタマーサービスに至るまで、あらゆる複雑なワークフローを効率化します。これにより、マーケティング組織は、一貫した大規模なブランドナラティブを展開できるようになるのです。
これはすでに Chime でも目覚ましい成果を上げ始めています。現在、チャットや音声によるカスタマーサポート対応の 70% 以上を AI 搭載システムが担っており、ブランドとしての一貫したトーンや正確性を維持しながら、サポート満足度は 2 倍に向上しました。さらに、従来の A/B テストの枠を超えて強化学習を活用することで、サービスの利用開始から顧客行動全体における検証のスピードと規模を劇的に向上させています。これらの機能を統合することで、マーケティングチームはより早く学習し、以前とは比較にならないほどの短時間で改善を実装できるようになりました。
「現代の CMO は、真に統合されたオーケストラを指揮しなければなりません。本質的な仕事は、人間の判断が最も価値を生む領域はどこか、AI エージェントが実行を加速できる領域はどこかを見極めることです。そして、システム全体が最大のポテンシャルを発揮できるように、両者をどう融合させるかを設計することにあります。Chime では、AI は業務を加速させる存在ですが、最も重要な判断、創造性、信頼関係の構築を主導しているのは、今でも人間なのです」(メーラ氏)
3:才能を最大化させるリーダー:柔軟なストーリーテリングで影響力を拡大する
2035 年の CMO には、数学と直感を兼ね備えた「両利き」のマーケター集団を育成することが求められます。近い将来、実務の多くを AI エージェントが代わるようになれば、チームの全メンバーには AI を技術的に使いこなすスキルと、ブランドストーリーを感情豊かに語るスキルの両方が不可欠になるからです。自動化がどれほど加速したとしても、ブランドの個性を際立たせ、人間ならではの温かみが失われないようにすること。それが CMO の果たすべき重要な役割だとメーラ氏は説明します。
AI ツールが急速に進化するなかで、従来の硬直化した部門制は、柔軟で部門横断的な機動チームに道を譲らなければなりません。同氏は、基盤となる AI 技術が広く普及して誰でも使えるようになれば、真の優位性は、組織がいかに迅速に、それらの技術を実務に適用できるかにシフトすると指摘します。そこでは、自社固有のデータ、強固なガバナンス、独自のクリエイティブな判断をいかに組み合わせるかが鍵になります。そのような世界では、人間の創造性こそが究極の差別化要因になり、組織の才能を何倍にも引き出すリーダーとしての CMO の役割が不可欠なものになります。
4:コミュニティの設計者:顧客にスポットライトを当てる
2035 年には、人間同士のつながりを築くことが今以上に重要になるでしょう。「AI 時代の皮肉な点は、テクノロジーが実務の多くを代替すればするほど、人間性やコミュニティの価値がかつてないほどに高まっていくことです」とメーラ氏は予測します。顧客が自分の居場所だと感じられるようなコミュニティやエコシステムを構築し、そのコミュニティに深く根ざしたストーリーを語ることこそ、CMO が果たすべき役割なのです。
Chime にとって、こうしたコミュニティへのコミットメントは、顧客への徹底的なフォーカスという形となって現れています。ここでも、AI が一役買っています。数百万件に及ぶインタラクションの中から顕在化しつつあるニーズやパターンを抽出。コミュニティの人々が実際に直面している経験を、クリエイティブチームがより深く洞察できるよう支援しています。
こうした姿勢は、Chime のクリエイティブ戦略にも色濃く反映されています。同社では信頼性を担保するため、体験談広告には俳優ではなく実際の顧客を起用するのが鉄則です。自身のストーリーを共有してくれる人を募集すると、数千もの応募が殺到するほどです。メーラ氏は、これを金融サービス業界では「類を見ないほどのファン層」だと話します。デジタルノマド(英語)からウェルネス起業家(英語)まで、多様なバックグラウンドを持つ同社の顧客自身が、ブランドにとって最高の代弁者となっているのです。
5:文化の解読者:ブランドの差別化と関連性を維持する
顧客にとって意味のある存在であり続け、常にその実態を捉えておくためには、変化し続けるカルチャートレンドを理解する必要があります。
これは今に始まったことではありませんが、トレンドが生まれては消えるスピードが格段に上がった現在、CMO にはかすかな予兆を鋭く察知し、それを競合優位性に変換するエキスパートとしての能力が求められます。ここで重要なのは、単にあらゆる流行を追いかけることではなく、社会の変化に対して柔軟に反応できるブランドを構築するということです。
未来のマーケティング組織を実現するために、リーダーは AI がもたらす加速を享受しつつも、本質を見失わないためのスマートで合理的な指針を持って運営にあたるべきだとメーラ氏は指摘します。次の時代をリードするのは、創造性と責任ある AI を融合させ、透明性、同意、信頼を中核に据えながら、自動化を活用して迅速に行動できるマーケターだと同氏は考えています。
マーケティング領域に待ち受ける未来について、メーラ氏自身は徹底して楽観的な見方を崩しません。「あるとき、『自分の子供をマーケターにするべきでしょうか?』と尋ねられたことがあります。私はこう答えました。『これ以上の仕事はありません。今はマーケティングの黄金時代です。アイデアさえあれば、それを形にし、コードを書き、世界中に発信するためのツールを誰もが持てるのですから』とね」
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