コミュニケーションプランニングの現場において社会や生活者の動向を的確に捉えられるかどうかが、事業成長を大きく左右します。変化に対して決して後手に回ることなく、常に先手を打つためには、生活者のインサイトを多面的かつ客観的に理解することが欠かせません。
私たち大正製薬株式会社も、まさにこの挑戦に向き合ってきました。精度の高い仮説を構築し、プランニングの PDCA を素早く回して施策の確度を高めていく。そのための糸口を模索する中で、Google から提案を受けたのが「Planning with Gemini」というソリューションです。
Gemini を、単なる作業効率化のツールとしてではなく、いわばマーケティングプロセスを加速させる「思考の伴走者」として起用するものと捉えています。具体的には以下 3 つのプロセス全般をカバーしています。
- インサイト(顧客の深層心理の抽出と可視化)
- クリエイティブ(訴求メッセージやストーリーの客観的な検証)
- メディア(情報接触経路のシミュレーションと最適化)
AI は「答え」を出すツールではなく、マーケターの意思決定を加速させる伴走者
Google とのプロジェクトを進める上で、私たちが最も強く意識したのは「AI の活用自体を目的化させない」ことでした。単にデータを AI に読み込ませ、自動的に算出された分析結果を受け取るだけでは、その結論に至る道筋がブラックボックスになってしまうからです。
プランニングのリードタイムを短縮し、顧客理解に対する確信を得るためには、マーケター自身が戦略立案・コミュニケーション開発の主導権を握り続けなければなりません。だからこそAI にいきなり正解を求めるのではなく、マーケター自らが描き出した戦略や仮説を共に磨き上げる思考の壁打ち相手として Gemini を位置づけました。入念な顧客理解とスピーディな意思決定を支えるパートナーとして、AI を適切に組み込むことを意識したのです。
今回は、先述したインサイト、クリエイティブ、メディアの各プロセスでそれぞれ Planning with Gemini を実施。ワークショップ形式で Gemini との対話を重ねながら、戦略の解像度を段階的に高めていきました。
発毛剤「リアップ」の事例:データと AI の推論がもたらした確信
当社の主力ブランドであり、ロングセラー商品でもある発毛剤「リアップ」において、ワークショップを実施しました。
社内のブランドマネージャーやコミュニケーションおよびメディアの担当者、広告会社、Google が一堂に会し、スクリーンに Gemini の画面を投影して、リアルタイムでプロンプトを入力し合いながら議論を進める形式です。各プロセスで当社がどのように Gemini を活用し、どのようなアウトプットを生み出したのか、詳しく見ていきましょう。
インサイト:膨大なデータから、顧客の実像を捉えたペルソナを瞬時に生成
まず当社が取り組んだのは、顧客の解像度を高めることでした。これまでも、膨大な定量調査のデータや過去のレポートから、顧客のインサイトや行動を理解してきました。今回はそれに加えて、具体的な施策案を壁打ちして、施策の成功確度を高められるようなプランニングの進め方を実施したいと考えていました。
今回 Gemini にインプットしたのは、当社が独自に行ったユーザーインタビューのまとめや定量的な調査結果といった従来通りのデータです。しかし、Gemini の推論能力を活用することで、分析の質に大きな変化が生まれました。
膨大なデータの羅列から平均値を割り出すのではなく、「この複数のデータ傾向を持つ人物は、日常でどのような感情を抱き、どのような生活を送っているか」という行間を Gemini に推測・言語化させたのです。
「山田太郎(45 歳、中間管理職)」という具体性のあるペルソナを構築したことで、生々しいインサイトが提示され、顧客像への共通認識をチーム内で深めることができました。
クリエイティブ:ペルソナにクリエイティブ案を評価させ、議論の起点に
続いて、構築したペルソナに対して、当社が検討していたキャンペーンのコミュニケーション訴求軸やストーリー案を提示し、その反応を探りました。
ここでのポイントは、あらかじめ「共感度」「行動喚起力」といった評価基準を設定した上で、各案に対して Gemini に点数付けとフィードバックを求めたことです。
評価基準を明確にし、Gemini による客観的な判定を議論の起点とすることで、メッセージが顧客にどう響くのかを多角的に検証でき、最も効果的なクリエイティブ案を確信を持って絞り込むことができました。
メディア:1 つのペルソナから「1,000 通りの行動分布」をシミュレーション、徹底的に顧客起点で考える
最も特徴的だったのが、このメディアプランニングのフェーズです。
生活者の行動は、検索や検討を行ったり来たりしながら複雑に変化します。そのため、たった 1 人の理想的なカスタマージャーニーを描くだけでは、多様な行動パターンを見落としてしまう懸念がありました。
そこで、所定の予算規模の中で自発的な検索行動を獲得するという具体的な目標を Gemini にインプットした上で、先ほど構築したペルソナへ次のように問いかけました。「もし、山田太郎と同じ属性と悩みを持つ人物が 1,000 人存在した場合、1 日のなかでどのようなメディアに、どのような態度で接触するか?」
つまり、Gemini の推論能力を用いて、1 つのペルソナから派生する 1,000 通りの行動パターンの分布を統計的にシミュレーションさせたのです。これにより「朝の通勤時間はスマートフォンで YouTube のビジネス系コンテンツを視聴し、夜の帰宅後はコネクテッドテレビの大画面で趣味の動画に没入する」といった、時間帯やデバイスごとの細かい視聴態度の傾向を網羅的に把握することができました。
多角的なシミュレーションがもたらす、意思決定の「スピード」と「確信」
この多角的なシミュレーションの結果、実効性の高いメディア戦略の全体像が見えてきました。
顧客の自発的な検索行動を最大化するためには、YouTube での動画広告の最適なフリークエンシーがおよそ 5 〜 7 回であると特定されました。さらに、Google の提供するリーチプランナーでシミュレーションをしたところ、限られた予算のなかで投資対効果(ROI)を最大化するため、YouTube 広告を含むデジタル広告とテレビ CM を統合した上で、最も高いパフォーマンスを生み出す最適な予算配分プランが導き出されました。
このメディアプランを実際のキャンペーンで適用したところ、当社の調査では前年同期比で店頭売上が 6% 増(*1)、自社 EC 売上が 39% 増(*1) という成果を上げることができました。Planning with Gemini によるアウトプットが机上の空論ではなく、実際にビジネス成長へつながることが確認できたのです。
従来、こうした高度なメディアミックスのシミュレーションや予算配分の最適解を導き出すには、専門的な外部ツールを用いる必要がありました。しかし Gemini を伴走者とすることで、マーケター自身の手によって、限られた時間の中でもこれらの指針を導き出すことができたのです。
Planning with Gemini に取り組んだ結果、AI による多角的な分析に基づき、真に顧客中心の意思決定が可能になりました。プランニングの PDCA がスピーディーに回り、絶え間ない改善を実行できています。Gemini を活用したこのプロセスは、事業成長を力強く前進させるエンジンとして機能しているのです。
Contributor:木田 東吾(クリエイティブワークス)/阿久澤 拓巳(クリエイティブワークス)/川端 栄佑(インダストリーマネージャー)/大塚 武(インダストリーマネージャー)
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