US 版 Think with Google が 2026 年 2 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
ジム・レシンスキー氏は、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のマーケティング特任教授であり、『The AI Marketing Canvas』(Stanford Press、2026 年)の著者です。本記事のフレームワークは、同書で提唱されたものです。記事の見解は、著者のレシンスキー氏個人のものであり、必ずしも Google の見解を反映するものではありません。
ジム・レシンスキー氏
業界を問わず、多くの CMO が AI 活用において着実に前進しています。マーケティング部門では、レポート作成を自動化して、コンテンツ制作の時間を短縮し、ワークフローを改善することで効率化を実現しています。これは間違いなく大きな成果です。時間のゆとりを生み出して、業務の滞りを解消し、組織に勢いをもたらしています。
しかし、多くのマーケティング組織において、AI に関する議論は「生産性の向上」で止まってしまっています。効率化は重要ですが、AI を単なるコスト削減の手段としてのみ扱うことは、その可能性を狭めることになります。マーケターが、AI がもたらす事業成長の可能性に気づく機会を奪ってしまうのです。
これを回避するためには、AI がどのように価値を生み出すのかについて、CMO がより明確な認識を持つ必要があります。
AI を本格的に導入する前に、CMO は次の 2 つの根本的な問いを検討すべきです。「私たちが求めている主なメリットは、生産性や効率化なのか、それとも革新的な成長なのか?」「最も恩恵を受けているのは社内のチームか、それとも顧客か?」。
これらの問いに対する答えが明確であれば、投資判断はより的確になり、やるべきこととそうでないことの取捨選択が明確になります。逆にここがあいまいなままだと、方向性や戦略的な優位性を欠いたまま、AI の試験運用やツール導入ばかりが無作為に積み上がっていくことになります。
AI 戦略を構築するために、まずは以下 4 象限からフレームワークで AI 活用の状況を整理してみることをおすすめします。
- 社内の生産性向上(即効性のある成果):レポート作成、コンテンツ制作、キャンペーン設定、社内リサーチの自動化を通じて、チームの業務スピードを高めます。ほとんどの組織がここから着手します。これらはリスクが低く、短期間で成果を上げ、チームの自信と勢いを構築するためのステップですが、あくまで AI 活用の入り口であり、最終目標と見なすべきではありません。
- 顧客への生産性還元(顧客サービスの向上):AI を活用して顧客の手間を減らし、ブランドへの問い合わせや手続きをよりスムーズに完結できるようにすること。代表例として、FAQ チャットボットや AI 搭載のカスタマーサービスの自動化などが挙げられます。これらの取り組みは、効率化のメリットを顧客体験へと還元するものです。パフォーマンスは向上しますが、依然として成長よりも効率化に重きが置かれています。
- 社内の成長(チーム能力の拡張):AI が戦略策定に寄与し始める段階です。チームのワークフローの再構築や高度な需要予測に加え、状況に応じたシミュレーションや新たなビジネス機会の可視化などを通じて、リーダーは「どの領域で勝負し、どのようにリソースを配分すべきか」について、より精度の高い予測に基づく意思決定を下せるようになります。この段階に達すると、AI は単なる生産性向上ツールではなく、戦略的な成長パートナーとして機能します。
- 顧客への価値創造による成長(革新的な成長):AI が価値創造のあり方を根本から変える段階です。データに基づいた迅速なプロダクト開発や、顧客の行動予測を伴うパーソナライゼーションによって、常に変化する顧客のニーズに合わせた体験を提供します。これが新たな需要を喚起し、さらなる付加価値を生み出すのです。この段階において、AI は真の成長エンジンとなり、ライフタイムバリュー(LTV)と自社の競争優位性を高めます。
現在、ほとんどの組織は AI への取り組みを最初の 2 つに集中させています。これは当然のことです。生産性の向上は目に見えやすく、投資を正当化しやすいうえにリスクも低く、より早くリターンをもたらすからです。
しかし、いつまでも効率化ばかりに目を向けていると、結果として AI がもたらす戦略的な可能性を狭めてしまうことになります。マーケティングがどう進化できるかを再構築するのではなく、既存のワークフローや思考モデルを最適化するにとどまってしまうのです。
先進的な組織の CMO は、これとは異なるアプローチをとります。生産性向上の取り組みにとどまらず、そこで得た余力を事業成長の基盤づくりに投資しているのです。自動化とは、単にコストを下げるためのものではなく、より価値の高い業務に取り組む時間を創出するものだと捉えているからです。
だからこそ、こうしたリーダーはさらに一歩踏み込み、次のような視座の高い問いを投げかけます。「AI は自社の戦略的判断をどう高めているか」「新たな需要の創出にどう役立っているか」「新しいビジネス モデルや収益源を生み出しているか」「長期的な企業価値をどう強化しているか」と。
あなたの会社の AI 活用の実態は、上で見た 4 つのどこに位置しているでしょうか。これを測る簡単な方法は、自社の AI リソースの大部分がどこに配備されているかを確認することです。
もし投資が社内の効率化に集中しているとすれば、それは堅実なリスク管理の表れです。しかし同時に、まだまだ成長の余地が残されているということでもあります。次のステップとして求められるのは、AI を事業の成長と加速に活かす方向へ、取り組みの比重を見直すことです。
マーケティングにおける AI 変革とは、単なるコスト削減や新しいツールの導入を意味するものではありません。重要なのは、AI の具体的な活用方法を戦略的に見極めることです。生産性の向上は組織に勢いをもたらし、事業の成長は競争優位性を築きます。次のフェーズで成功を収める CMO とは、マーケティング業務を効率化するためだけでなく、その効果を最大化するために AI を活用できるリーダーなのです。
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