AI の進化にともない、人々の検索行動は、「短い単語」による検索から、「複雑な文章」や「多角的な比較」を用いた検索へと、より深く、多様なものへと変化しています。
これは従来の、特定のキーワードへの入札や目標とする顧客獲得単価(CPA)の最適化といった広告運用だけでは、「未来の顧客」との接点を取りこぼしてしまう可能性があることを示唆しています。マーケターに今求められているのは、検索の背後にある「インテント(意図)」を的確に捉える運用です。1:見込み顧客を見つけるためのデータ活用、2:クリエイティブの最適化による求める情報の提供、3:Web ページへの誘導までを統合したアプローチへアップデートすることが不可欠となっています。
しかし、これら 3 つのプロセスを、すべて人間の手で管理・運用することは、もはや現実的とは言えなくなっています。
検索の背後にある膨大なシグナル(時間、場所、過去の行動など)をリアルタイムに分析し、見込み顧客を見つけ出す作業は、人の力だけではなかなか追いつきません。また、ユーザーごとの細かなインテントに合わせて、最適な広告テキストや画像を作成し、検証を繰り返すことも、時間とリソースの面で限界があります。さらに、刻一刻と変化するオークション環境の中で入札を微調整し、Web ページへの誘導を最大化していくプロセスも、手動で行うのは容易ではありません。
AI の進化がユーザーの検索行動をこれほどまでに複雑化させたのであれば、それに対応する広告運用にも「進化した AI の力」を取り入れるのが、自然なアプローチと言えます。今や AI の活用は、マーケティングにおいて欠かせない要素となっているのです。
多様な検索意図を網羅し、「リーチの壁」を突破する
では、AI をどのように自社の広告運用に取り入れていけばよいのでしょうか。人間には予測しきれない多様な検索語句を、AI の力で自動的に網羅することで、これまで到達できなかったユーザーへリーチを広げた、2 つの具体的な事例を紹介します。
1 社目の LINEヤフー株式会社は、過去の運用において、目標指標となる新規ユーザーの条件を狭く絞り込んでいたため、AI の学習データが不足し、広告のリーチが伸び悩んでいました。そこで同社は細かいキーワード管理の工数を削減しつつユーザーのインテントを効率的に捉えるため、検索キャンペーン向け AI 最大化設定とインテント マッチを軸とした運用へと抜本的にシフトしました。
この AI 最大化設定のパフォーマンスを最大限に引き出すため、既存ユーザーのデータも学習に含めて十分なデータ量を確保。同時に、コンバージョン値のルールを用いて新規ユーザーによるコンバージョン(CV)の価値を高く設定しました。
これにより、AI が人間には予測しきれない多様な検索語句を網羅して配信規模を確実に拡大させるだけでなく、「新規獲得の優先」と「学習量の確保」の両立を実現。結果として AI による最適化の精度が飛躍的に高まり、新規ユーザーのコンバージョン率(CVR)が 93% 増加するという成果を収めています。
次に、楽天インシュアランスプランニング株式会社は、生命保険市場において「生命保険」や「医療保険」といった主要なキーワードでの入札競争が激化し、クリック単価が高騰しているという課題に直面していました。特定の顕在キーワードに頼る手動運用では、リーチできるユーザーが限定されてしまうのが実情でした。
そこで注目したのが、具体的なキーワードを持たず情報探索を始めたばかりのユーザーが持つ「曖昧な意図」です。さらに同社は少人数でも効率よく成果を出す方針として、P-MAX キャンペーン(P-MAX)を効果的に活用しました。
これにより、競合サービスがひしめく汎用的な表現のキーワードに依存することなく、ユーザーの多様な検索意図を網羅的にキャッチする仕組みを構築。AI が楽天グループのサービス群から得られる膨大なインテントを正確に捉え、これまでアプローチできていなかった潜在的な検索需要までカバーした結果、獲得件数を 220% 向上させるという成果につながっています。
この 2 社の事例から学べるのは、特定のキーワードを管理する手動運用の枠を超え、多様で曖昧な検索意図を AI によって網羅的に捉えるアプローチこそが、「リーチの壁」を突破する鍵になるという事実です。
ファーストパーティ データで AI をガイドし、持続的なビジネス成長を牽引する
今度は、保有する「ファーストパーティ データ」を AI に学習させ、自社のビジネスにおける「正解」をより深く理解させることで成果を上げた 2 つの事例を見ていきましょう。
まず、車のサブスクリプションサービスを運営する株式会社KINTO は、「車種名」での検索だけでなく、ユーザーが求めている「車の維持費を抑えたい」「手軽に車を利用したい」という、サービスの核心に迫るインテントに着目しました。こうした独自のインテントを持つユーザーにリーチするため、鍵となったのがファーストパーティ データの活用です。同社は、自社サイト内の行動履歴を活用し、Web 経由で契約につながりやすいユーザーの行動パターンを抽出。これを質の高いシグナルとして検索広告に連係することで、自社にとって収益性の高い新たな顧客セグメントの発見へとつなげました。
その結果、2025 年 1 月から 10 月の成果において、新規サービス利用申込数は前年同期比で 25.6% 増加し、同時に CPA を 34.5% 削減するという、成長と収益性の両立を実現しました。
さらに特筆すべきは、広告配信を通じて AI から得られたインサイトが、Web サイトの UI/UX 改善や顧客が求める車種の傾向分析など、事業戦略そのものに広くフィードバックされた点です。AI がもたらすデータを起点に事業全体を最適化していくアプローチは、新しいマーケティングの形といえるでしょう。
一方、日本航空株式会社では事業のさらなる成長において、日常的に自社を利用するロイヤル顧客だけでなく、状況に応じて他社の代替手段(LCC や新幹線など)を比較検討しているゲストユーザーの利用頻度を上げることが不可欠でした。しかし、人々の曖昧な検討フェーズや多様な関心を、従来の広告運用で的確に捉えることは極めて困難でした。
そこで自社が保有する会員情報などの顧客データと、Google アナリティクス 4 を連係させたファーストパーティ データを活用しました。このデータによって「代替手段を検討しているユーザー」の姿を明確に定義し、AI を広告による純粋な増分売上の獲得に集中させたのです。
また、そのユーザー像に基づき、多様な関心に合わせたクリエイティブを Gemini などの AI を使って生成。通常時の 3 倍以上となる 3.92% のクリック率(CTR)を記録しました。リーチ数も従来の検索広告と比較して 1.94 倍へと押し上げることに成功しています。こうした成果の根底には、あえて獲得しやすい層から離れ、ゲストユーザー獲得を優先するという同社の戦略的な決断がありました。一時的な CPA の上昇を許容してでも中長期的なビジネス貢献を重視する、社内の合意形成こそが、AI の力を最大限に引き出したと言えます。
この 2 つの事例に共通する成功の要因は、自社のビジネス成長に寄与する顧客像を見極め、ファーストパーティ データを通じてその特徴を AI に深く学習させた点にあります。
AI が持つリーチ拡大のポテンシャルを最大限に引き出すためには、自社独自のデータの掛け合わせが非常に有効です。AI に「本当に見つけてほしい顧客像」を教えるガイド役として、ファーストパーティ データをいかに活用するか。その視点を持つことが、マーケティングを次のステージへと導く鍵です。
未来の顧客に選ばれていくために
AI を最大限に活用した検索広告や P-MAX は、単なる広告運用の効率化を目指すものではありません。複雑化する検索環境において、その意図を的確に捉え、ビジネスを成長させるためのアプローチと言えます。人々は今、情報を求めて探索と評価を絶えず繰り返しており、その複雑な動きを人の手だけで追い続けることは、もはや困難です。
「AI による概要」による瞬時の情報提示や、対話型インターフェース「AI モード」での深掘りなど、検索行動は今後さらに多様化していきます。このような環境下で自社が選ばれ続けるためには、デジタル広告運用に、AI 最大化設定やインテント マッチ、P-MAX、デマンド ジェネレーション キャンペーンを導入し、いち早く AI に自社ビジネスを深く学習させることが重要になります。
これからの AI 時代において、マーケターの役割は、特定のキーワードを探し出して入稿したり、入札を微調整したりといった手動の作業から離れ、自社のビジネス成長に必要なデータを見極め、AI が進むべき方向を示す「戦略の舵取り役」へとシフトしていくと考えられます。このようなアプローチこそが、複雑化する検索環境に適応し、未来の顧客を獲得し続けるための確かな道筋となるはずです。
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