生成 AI により、マーケティングの主戦場は単なる広告運用から「戦略策定や組織の働き方そのものの変革」へと移行しています。本記事では、Google Marketing Live Japan 2026 で発表された先進事例を公開。Gemini を「思考の伴走者」に据えた意思決定の高速化や、動画生成 AI によるリソース制約の克服など、人と Google の AI の共創によってマーケティングの現場をドラスティックに変えた 3 社の変革を紹介します。
JR東日本 JRE POINT : デマンド ジェネレーション キャンペーンと Google のエコシステムを活用し、指名検索数 12% リフトを達成
課題
JR東日本が運営する「JRE POINT」は、さらなる事業成長に向けて会員手前の「比較検討層」の開拓を目指していました。しかし、比較検討層に向けた施策は検索行動やコンバージョンへの相乗効果が見えにくく、投資効果の適切な評価や数値化しにくい点が課題となっていました。そこで同社はデマンド ジェネレーション キャンペーンを導入し、クリエイティブの工夫と多角的な効果検証を通じて、Google のエコシステムを最大限に生かす構造改革へ着手しました。
1. 的確なペルソナ構築とクリエイティブ高速量産
Google が持つ検索や広告のデータと Gemini を活用し、「市場規模」と「関心度」を踏まえてオーディエンスのペルソナ像を 3 つに絞り込みました。さらに Gemini を使ってペルソナごとに響く訴求コピーを生成したほか、Google の画像生成 AI「Imagen」を活用して 120 パターンの画像バリエーションを制作。また、ファーストパーティ データを活用した「類似セグメント」や検索キーワードを使った「カスタム セグメント」と組み合わせ、高精度なアプローチを実現しました。
2. 多角的に検証できる体制を構築
単一の直接コンバージョン評価だけでは捉えきれない、Google のエコシステム全体での相乗効果や多面的な成果を分析するため、「3 レイヤーの検証フレームワーク」を構築しました。まずは、対象キーワードの広告接触者と非接触者間での検索増分がどれくらいあったのかを測る「検索リフト」。次に広告接触から 7 日以内に発生した指名検索の数を測定する「Attributed Branded Searches 」。最後に検索広告や P-MAX キャンペーンとの重複ユーザーを可視化して、デマンド ジェネレーション キャンペーンによる純増を測定する「重複効果分析」。これらにより、施策の貢献度を構造的に数値化できる体制を整えました。
指名検索数がリフトし、検索単体比の CVR も向上
「3 レイヤーの検証フレームワーク」により、デマンド ジェネレーション キャンペーンの力強い成果と検索施策への相乗効果が実証されました。P-MAX キャンペーンの約 5 倍、検索広告の約 13 倍に及ぶユーザーへのリーチを獲得し、14 日間で 6 万件以上の指名検索を創出。そして、一番重視していた指名検索数は、12% 増と大幅にリフトしました。1 検索あたりの獲得コストも 160 円に抑えることに成功しました。さらに、デマンド ジェネレーション キャンペーンと検索広告の両方に接触したユーザーは、検索広告単体での接触時と比較して CVR(コンバージョン率)が +55.6% 向上。検索を中心としたコンバージョンにも大きく貢献することが証明されました。
この検証を通じて明確になった高い投資対効果と相乗効果が社内で認められ、継続して デマンド ジェネレーション キャンペーンを配信することが決定。今後も投資対効果を可視化できる分析手法を活用しながら、Google のエコシステム全体での相乗効果を高めていく方針です。
検索広告比のリーチ規模
指名検索数
検索広告併用時の コンバージョンレート向上
大正製薬 : Gemini を「思考の伴走者」に据え、意思決定の高速化へ
課題
ロングセラー ブランドを多数抱える大正製薬は、生活者の価値観や情報接点が高度に多様化する中、従来のマス マーケティングやファネル構造では多様なインサイトを捉えきれない限界に直面していました。また、購買者データから逆算した緻密なターゲット マーケティングを実行するには膨大な量とスピードの PDCA が不可欠である一方、社内の組織間や広告代理店とのやり取りにおける意思決定のタイムラグが課題となっていました。
1. 3 社協働のエコシステム「Planning with Gemini」の構築
Google のインテント データ、広告代理店である電通の生活者調査・企画データ、自社の顧客データ・ブランド理解を掛け合わせて「Planning with Gemini」を始動し、Gemini を「思考の伴走者」に据えた共創基盤を整えました。さらに、ブランド、コミュニケーション、メディア、商品開発、研究など社内の各部門が一体となり、「AI 仮想ペルソナ」と壁打ちを実施することで、組織の壁を越えて、コミュニケーション コンセプトを高速に検討する体制を確立しました。
2. クリエイティブと配信面の一体設計と、「寸胴型ファネル」の構築
1 人のペルソナから派生する 1,000 人の AI 仮想ペルソナを Gemini で生成し、行動シミュレーションを実施。これにより、これまで組織的に分断されがちだったクリエイティブとメディアを、ユーザーの行動理解を起点に一体として最適化しました。さらに、単語から文脈での検索へと変化した生活者の動向に対応するため、顧客セグメントと検索インテントを掛け合わせてランディング ページを制作する取り組みを開始。ユーザーの興味関心から認知・獲得・購買に至るまでを文脈のズレなく直結させる「寸胴型ファネル」を実現しました。
3. 広告代理店との働き方を変革する「共創型」意思決定プロセスの導入
Gemini のアウトプットを叩き台に、「大正製薬の仮説」と「広告代理店の高い専門性」を掛け合わせ、その場でタイムリーに議論を交わせる「共創型」の働き方にシフトしました。
Gemini と持続的な成長へ
Gemini を導入したことにより、初日のワークショップではわずか半日で 80 のコンセプトを創出するに至り、Gemini と人間の評価を組み合わせて勝算の高い 5 案へと絞り込む再現性のあるフローを構築できました。また、セクショナリズムを乗り越えてクリエイティブとメディアを同時最適化することで、マーケティング施策全体の蓋然性を飛躍的に高めることに成功しました。
AI によって作業速度が劇的に向上する時代だからこそ、目的を明確にし、「何を目指し、どれを選ぶのか」という人間の「ディレクションとディシジョン」が企業の新たな競争優位性になると同社は提起しています。マーケターが旗振り役となって、AI を活用した企業の競争力向上を推進 することで、持続的な企業成長と日本のビジネスの未来を変える変革に 挑み続けます。
シーズンズ : Google の AI 動画生成を活用してリソース制約を克服。成約数 283% を実現
課題
合宿免許の紹介エージェント事業を展開するシーズンズは、営業担当者 1 名がマーケティング業務を兼任する体制をとっていました。限られたノウハウとリソースから、施策が検索広告に偏ってしまい、成長が鈍化する課題に直面。より多くの潜在顧客層へリーチを拡大したいものの、動画クリエイティブの制作ハードルが高く、獲得施策の拡大に踏み出せずにいました。
1. Google の AI 動画生成ツールによるクリエイティブの内製化と量産化
変化のきっかけは、Google の AI 動画生成ツールの活用でした。「Flow」や「Vids」などのツールで、これまで手のつけられなかった動画クリエイティブの内製化と量産化を実現しました。
2. デマンド ジェネレーション キャンペーンの本格稼働
量産した動画クリエイティブを軸に、デマンド ジェネレーション キャンペーンを本格運用。従来の検索広告だけではリーチできなかった潜在顧客層に対して、能動的なアプローチを開始しました。
CPA は大幅に改善し、成約数も飛躍的に拡大
営業との兼任、1 名体制という制約の中でも、Google の AI ツールの活用によって負荷の大幅削減に成功。また、デマンド ジェネレーション キャンペーンの「小さなトライアルを高速で反復する」検証プロセスを確立し、効果の高いクリエイティブの傾向を即座に運用へ反映する体制を整えることができました。その結果、検証を重ねることで CPA(顧客獲得単価)を 82% 改善させ、最終的に成約数は前年同期比 283% という大幅な事業成果を達成しました。
ノウハウやリソースの不足は、もはや事業成長を阻む制約ではありません。「アセット スタジオ」 や 「Ask Advisor」などの AI エージェントの進化により、クリエイティブ制作から運用判断、戦略策定まで Google の AI が担う領域が拡大しています。このような世界が実現することにより、マーケターは日々の細かな業務から解放され、より「顧客に向き合い、戦略やアイデアを生み出すこと」に注力できるようになります。限られたリソースであっても、AI エージェントを常にそばに置いて対話をすることで、スピードとスケールを両立した事業成長へ挑むことが可能となるのです。
成約数(前年同期比)
CPA 改善率