AI などの技術革新により情報が爆発的に増え、生活者の購買行動が複雑化、多様化する現代。ブランドが一方的にメッセージを発信するだけでは、もはや生活者の心には届きにくくなっています。
これを打破する鍵として YouTube が提唱するのが、ブランドとクリエイターがパートナーとして共にメッセージやコンテンツを創っていく「共創」という概念です。Google の Android マーケティングチームの事例と Google の最新ソリューションから、なぜ今クリエイターとの共創が重要なのか、そしてその成功の秘訣をひもときます。
生活者にメッセージを届けるための 3 要素
2025 年 10 月に YouTube が開催したイベント Brandcast では、現在の生活者にメッセージを届けるために不可欠な要素として次の 3 つを挙げました。
YouTube は、サービス開始から 20 年をかけて、この 3 要素を高い水準で満たせる唯一のプラットフォームへと成長してきました。
そして、この YouTube の特性が色濃く反映されているのが、共通の趣味や熱量を軸につながる「界隈」と呼ばれる緩やかなコミュニティです。 現代の生活者は、興味のある特定の界隈に深く入り込み、そこで高い熱量を持ってコンテンツに没頭しています。YouTube においては、その界隈の文脈を深く理解し、ファンの熱量を牽引しているクリエイターとの共創こそが、生活者の心を動かし、Relevance、Focus、Trust のすべてを後押しする近道と言えるでしょう。
Android チームが、Z 世代の「推し活」に深く入り込めた理由
では、実際にどのようにしてブランドのメッセージを「界隈」の中に溶け込ませればよいのでしょうか。Android マーケティングチームが 2024 年 10 月から 2025 年 6 月にかけて取り組んだ事例を見てみましょう。多くの人がすでに使い慣れたスマートフォンを持っている中で、OS という普段あまり意識されない商材を、Z 世代に訴求しました。
Android マーケティングチームが注目したのは「推し活」です。調査によると、Z 世代の 約 6 割 が日常的に推し活を行い、特に 10 代女性では可処分所得の半分以上を費やしています(*1)。推し活はもはや単なる趣味ではなく、人生をかけたライフスタイルそのものと言えます。そこで、「Android が推し活をさらに楽しく、快適にする存在」として、推し活の中にプロダクトを自然に溶け込ませる戦略へと舵を切りました。
施策の成功を決定づけたのは、クリエイターとの関係構築のプロセスでした。要件を一方的に伝えるブリーフィング形式ではなく、「コーヒーチャット」と題したカジュアルな場を設定し、チームの担当者が直接クリエイターと会って 1 時間ほど対話。「Android でどんなことができそうか」「ファンは何を喜んでくれそうか」などを話しながら、ブランドとしての思いも共有しました。こうして相互理解を図り、信頼関係を築くからこそ、動画の構成や表現についてはクリエイターを信頼して一任できたのです。
また、コンテンツを作る前には、クリエイター自身に実際に製品を使い込んでもらい、本音で良いと感じた点を自身の言葉で発信してもらうことを強く意識しました。
たとえば、旅行界隈で人気の YouTube チャンネル「ぴと@旅行WEBライター」では、旅行を充実させる Android の新機能を Vlog 風の動画で紹介、K-POP 情報を発信する YouTube チャンネル「まにまにハウス」では、楽曲を探すAndroid の新機能を自身のファンに響く切り口で紹介しました。事前の丁寧なプロセスを経ることで、クリエイター自身の言葉による本音を引き出すことが可能になり、ファンの心に響くコンテンツとなったのです。
また、この「推し活」戦略の中核として、まさに Z 世代の推し活対象として高い人気と熱狂的なファン層を持つ星街すいせい氏、ChroNoiR といった VTuber とのコラボレーションも展開しました。まさに推し活の対象であるこうしたクリエイターの世界観を尊重し、単に製品を宣伝してもらうのではなく、Android の機能を「推し活を充実させるツール 」として提案しました。
たとえば、Android の「かこって検索(画面上の画像やテキストなどの気になる情報を指でかこって検索する機能)」を使うことで、ミュージックビデオ内に登場する VTuber ゆかりのアイテムを調べられる、Google の AI である Gemini を使うことで、ミュージックビデオの裏話や制作秘話を解説してもらえるなど、VTuber の世界観や作品の一部として溶け込み、ファンの体験をリッチにする役割に徹しました。これにより、Android の機能が「広告」ではなく、推し活に欠かせないパートナーとして自然に受け入れられたのです。
その結果、Z 世代のブランドパーセプションは過去施策比で 290% と大きく向上。特に YouTube ショートを活用した広告の効果は高く、他広告配信先と比較して 160% のブランドリフトを記録しました。クリエイターを広告の手段ではなく「パートナー」として尊重し、その熱量高い界隈に深く入り込んだことが、成功の決定打となりました。
YouTube クリエイターの選定とプランニングをデータと AI で支援
Android の事例では、登録者数などの定量データだけでは分からない「ブランドとの親和性」や「ファンの熱量」を見極めるため、担当者が膨大な数の動画を確認し、手探りで分析を行っていました。成功の裏には、こうした地道な努力がありました。
しかし、すべての企業がこのプロセスに膨大な時間や労力を割けるわけではないでしょう。限られたリソースの中で「ブランドと合うクリエイターを探すのに膨大な時間と労力がかかる」または「メッセージをどう効果的に界隈内に広げられるのかわからない」といった多くのマーケターが抱える課題に対し、Google ではこれまでの知見を体系化し、AI を活用したソリューションとして 2025 年 11 月より本格的に提案を開始しました。これまで担当者の「勘」や「経験」に頼っていたプロセスを、データと AI で精緻化・効率化する 3 つのステップを紹介します。
ステップ 1:界隈をさがす
まずは、自社ブランドと親和性の高い「界隈」と、その中でも特に熱量の高いファン層を持つ YouTube クリエイターを見つけましょう。
ここでは Google の「Insights Finder(*2)」などのツールを活用し、「自社ブランドに関心がある層」が、一般層と比較して「どの界隈に強い興味を持っているか」をインデックススコアとして可視化します。
上の図の例であれば、ブランド関心層は一般的な人々に比べて「美容 Tips」への関心が 1.5 倍、「K-POP(音楽)」への関心が 2.0 倍、であることがわかります。このように、数値に基づいて、優先的にアプローチすべきコア界隈を特定します。
さらに、その界隈の中でも、特に支持や関心を集めているクリエイターをデータから抽出。これにより、主観ではなく、ブランドのパートナーとして確実性の高い YouTube クリエイターを見つけることができるのです。
また、この選定プロセスをさらに効率化するために Google が日本独自で開発したのが「界隈ジェネレーター(*3)」です。 商材やトピックを入力するだけで、アプローチすべき界隈と YouTube クリエイターを自動で抽出。さらに、クリエイターとブランドの相性チェックや、ブランドセーフティの観点で問題がないかどうかの確認までを一気通貫で行うことが可能です。
ステップ 2:界隈に寄り添う
次に、抽出した YouTube クリエイターとの親和性を深堀りします。Gemini がクリエイターの過去の動画や視聴者のコメント傾向を分析し、「ブランドの訴求点」「クリエイターの特徴(チャンネルのトーン)」「界隈の視聴者のニーズ」の 3 つが重なるコラボレーションの方向性を分析します。
「このクリエイターのファンは、機能性よりも世界観に共感している」「この界隈では、プロフェッショナルな解説が好まれる」といったインサイトを導き出し、ブランド、クリエイター、ファンの全員にとってプラスになるコラボレーションの切り口を具体化します。
ステップ 3:界隈へ広げる
クリエイターとの共創によって生まれた熱量の高いコンテンツ(点)を、今度は界隈全体(面)へと広げていくフェーズです。
YouTube クリエイターの動画を「プロモーションを含む」と明示したうえで広告として配信する「パートナーシップ広告」を活用すれば、オーガニック投稿に近い見え方を保ったまま、チャンネル登録者以外の層にもリーチを広げることができます。
さらに、その熱量を界隈全体へ波及させるために、以下の 2 つの手法を組み合わせたメディアプランニングが有効です。
予約型「YouTube セレクトのカスタムラインナップ」
YouTube 内の上位 5% の厳選されたチャンネルから、特定の界隈(美容、キャンプ、ガジェットなど)に関連するコンテンツを独自にパッケージ化して配信します。界隈の “ 一等地 ” に確実にメッセージを届けるアプローチです。
運用型「動画視聴キャンペーン(VVC)」「コンテクスチュアルターゲティング」
AI によって視聴数を最大化する「動画視聴キャンペーン(VVC)」に、特定のコンテンツ面に配信するコンテクスチュアルターゲティングを掛け合わせます。これにより、界隈のコンテンツを見ている瞬間のユーザーへメッセージを届けます。
これらを組み合わせることで、YouTube クリエイターのファンが持つ熱量を、その界隈に関心を持つ層全体へと最大化させることが可能です。
これからのマーケティングは「共創」へクリエイターは単なる広告の手段ではありません。特定の界隈において深い信頼と熱量を集める中心人物であり、ブランドのメッセージを生活者の言葉に翻訳して届けてくれるパートナーです。
クリエイターの生の声や感性を尊重した「共創」と、それを加速させる「AI の活用」。この掛け合わせこそが、情報過多の時代において生活者の心を動かし、ビジネスを成長させる鍵となるでしょう。
Contributor:服部 正人(Android プロダクトマーケティングマネージャー)/大塚 武(インダストリーマネージャー)/中島 美月(アナリティカルコンサルタント)
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