人々の旅行に対する価値観は広がりを見せています。有名な観光地を訪れたり非日常を求めたりするだけでなく、旅というシーンにおいても「誰かと深くつながりたい」「新しいスキルを身につけたい」「心身ともに回復したい」という、より内面的な充実を求める傾向が強まっています。
Trip.com と Google による共同調査(英語)を基に、日本を含むアジア太平洋地域(APAC)における最近の旅行動向と、そこから解釈できる旅行者のインサイトを解説します。
旅の目的は「誰と何を共有するか」にシフト
旅行の目的は、「どこに行くか」から「誰と何を共有するか」へとシフトしています。特に音楽やスポーツのイベントが、友人や家族との絆を深めるための重要なきっかけとなっているようです。
調査によると、過去2年以内にレジャー目的での海外旅行を経験した人のうち、タイでは 85% が、マレーシアでは 66% が、コンサートや音楽フェスへの参加を休暇と組み合わせています(*1)。こうした「イベントと休暇の融合」が進む中で、大規模イベント側でも多様な層を受け入れる環境を整えようとしている様子が見られます。
たとえば、日本の FUJI ROCK FESTIVAL では保護者同伴なら 15 歳以下の入場が無料で、子供向けの「KIDS LAND」も用意されています。同様に保護者同伴であれば、英国の Glastonbury Festival では 12 歳以下、米国の Coachella Valley Music & Arts Festival では 5 歳以下の入場を無料としており、世界的な音楽イベントが家族連れを歓迎する場になっています。
スポーツツーリズムも同様です。特に注目を集めているのが、マラソンやサイクリングといった耐久系スポーツへの挑戦です。2025 年上半期の世界全体における Google での関連検索数は、前年同期比 5 倍に成長しています(*2)。また日本を含む APAC 6 カ国での調査でも、Trip.com の旅行者の 90% が「スポーツイベントと文化探索の組み合わせ」を望んでおり(*1)、競技への参加をコミュニティでの旅に変える動きが顕著です。
こうしたニーズに応えるのが、「2025 上海マラソン」で見られるようなパッケージツアーの進化です。レースへの参加権だけでなく、宿泊や食事、シャトルバスまで完備することで、スポーツは個人の挑戦から、家族や友人と分かち合うマイルストーンへと変えています。
Souvenir(お土産)から Skillvenirs(スキルの習得)へ
旅行者の期待は、物質的な「モノ」から、自分の内面に残る「スキル」へと移行しています。今回のレポートでは、お土産(Souvenir)とスキル(Skill)を掛け合わせた「スキルベニア(Skillvenirs)」というキーワードでこのトレンドを定義しました。
象徴的なのが、「タイ 料理 教室」などの特定の学びに関する検索数が世界全体で 500% 以上増加している点です(*2)。APAC では特にオーストラリア、ニュージーランド、シンガポールの旅行者が、海外での料理教室に強い関心を寄せています。また同様のトレンドは、ワインの体験に関する検索にも見て取れます。たとえば有名な産地や伝統的なワイン祭りに関する検索は依然として高いままですが、その一方で、APAC の旅行者はさらに特別な体験を求めているようです。美しい景色とともに丁寧に企画された試飲を楽しむ「カナダのナイアガラ・オン・ザ・レイクのワインツアー」の検索が 140% 増加していることも、その表れの 1 つと言えるでしょう(*2)。単なる観光地巡りよりも、その地域の文化に深く根ざした学習体験を重視しているのです。
旅行者は今、棚に飾る置物よりも、帰国後の自分の生活を豊かにしてくれる「技術」や「経験」を持ち帰りたがっているのです。
インバウンドが求める日本での体験
ここまで見てきたような潮流は、日本を訪れるインバウンド旅行者にも顕著に現れています。日本を訪れる旅行者の関心は、表面的な観光から、自身の心身の状態を整える内面的な充実へとシフトしています。
その象徴とも言えるのが、温泉や入浴を通じて心身をリセットする旅「ソークケーション(Soakcation)」の盛り上がりです。特にシンガポールやタイ、オーストラリアなどの旅行者は、日本の温泉地を精神的な癒やしの旅の目的地として選んでいます。Trip.com のデータでも、日本の温泉関連の需要は前年同期比 20% 増。登別や定山渓、唐津といった温泉地への注目も高まっています(*3)。
また、「茶道(Japanese tea ceremonies)」の検索数も世界的に増加しており、2025 年上半期に前年同期比 53% 増加しました(*2)。特に台湾、香港、韓国、中国本土からの関心が高く、単なるコト消費を超え、マインドフルネスや自己研鑽につながる「儀式」としての文化体験が求められています。
旅のプロセスを変える AI やライブ配信
こうした「旅の目的」の変化は、それを実現するための「手段」にも変化をもたらしています。より個人的で深い体験を求める旅行者にとって、AI や動画プラットフォームは、理想の旅を叶えるための不可欠なパートナーとなりつつあるのです。
まず、インスピレーションを得る段階での変化です。APAC において YouTube は、口コミや予約サイト、他の SNS と比べても、旅行のインスピレーションを得る最大のタッチポイントとなっています(*4)。
タイ、インドネシア、インドでは 75% 以上が旅行関連のライブ配信を視聴しており、そのうち 40% 以上が配信内のリンクから直接予約を行う意向を示しています。日本でのライブ配信の視聴率は 25% で他国と比べるとまだ低いものの、裏を返せば、視覚的でリアルタイムな情報収集スタイルが浸透する大きな余地があると言えるでしょう(*5)。
また、計画段階においては AI が重要な役割を果たします。「help planning my trip(旅行の計画を手伝って)」という検索は世界で 190% 増えており、旅行者は単なる情報ではなく、具体的なプランニングの代行までを求めています(*2)。
Google は 2024 年以降、検索結果の画面上で「AI による概要」の提供を始めました。先行して展開していた英語圏でのデータを見ると、AI による概要を見たオーストラリアの旅行者の 61% が「関連性があり価値がある」と回答し(*6)。同じくインドでも 44% が AI による情報を基に意思決定を行っていました(*7)。
そして旅の最中も、AI が頼れる相棒となります。Trip.com が提供する多言語対応 AI アシスタント「TripGenie」は、旅行者に合わせた計画の提案から予約、翻訳までをサポートする機能を備えていますが、その利用は急速に伸びています。2025 年 8 月 から 9 月にかけてのデータを見ると、TripGenie のユーザー数は前年同期比 242% 増、翻訳機能の利用時間はサイト平均の 3 倍に達しました(*8)。
言葉の壁を取り払い、予期せぬトラブルを解決してくれる AI は、もはや単なる便利ツールの枠を超え、かつてのガイドブックのような「旅の必需品」へと変わりつつあることを物語っています。
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