US 版 Think with Google が 2025 年 12 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
Google の広告マーケティング部門の Vice President として、ヨーロッパ、中東、アフリカ(EMEA)を統括しているフィル・ウィルソンは、マーケティングと AI イノベーションの最前線で調査や分析を指揮しています。
2026 年は、AI のさらなる進化(英語)と技術革新(英語)が期待されます。これにより、デジタルとリアルの両面で人々の世界との接し方が変わり、企業と生活者とのつながり方も変化していくでしょう。
とはいえ、技術が進化しても変わらないことが 1 つあります。それは、人々が常に、答えや解決策、製品、そしてつながりを求めているということです。現在、人々は「サーチング、ストリーミング、スクローリング」といった行動を通じてショッピングニーズを満たしています。
Google のプラットフォーム上では日々、こうした行動が世界中で大量に行われています。Ipsos との調査によると、83% の人が日常的に Google や YouTube を利用していると回答しており、この割合は他のオンラインプラットフォームを大きく上回っています(*1)。こうした膨大なデータがあるからこそ、Google の AI は他にはないレベルで顧客の意図を深く理解できるのです。
AI は、商品との出会いから意思決定に至るまで、顧客の意図を理解するための、強力な存在となっています。着想を得るための漠然とした検索から、YouTube 上での特定の商品に関する具体的な質問に至るまで、そのプロセス全体を支える役割を果たしています。
こうした背景を踏まえて、重要な瞬間に確実に存在感を示すのに役立つ、Google の先見者たちによる 2026 年のデジタルマーケティングのトレンドと予測を紹介します。
人々は「今、満たされること」を優先する
先行きの見えない不確実な時代が続く中、人々の間では不安や心配、疲労感が強まっています。こうした感情的な消耗に対処しようとする上で、長期的な目標はかつてのような影響力を失いつつあります。代わりに人々は、目の前の報酬や新しい体験を通じて「今のウェルビーイング(心身の健康や幸福)」を向上させることを、優先するようになっているのです。
この変化は、従来のような人生設計が必ずしも保証されなくなった世界に対する合理的な反応と言えます。特に、経済や社会の荒波の中を切り抜けてきた若い世代にとって、住宅ローンの頭金のような遠い将来に向かって貯金するよりも、今この瞬間に喜びを得られる旅行にお金を使う方が、より現実的な選択肢になっているのです。これは単なる浪費ではなく、自分でコントロールできる唯一の時間である今において、前進しているという実感や安定感を求める行動です。
英国の航空会社である British Airways は、この傾向を捉え、マイレージプログラムの「Avios」を刷新しました。遠くの大きな目標の代わりに、より頻繁に達成できる中間目標を導入したのです。会員はより小刻みに特典を得られるようになり、現在のブランドへの愛着が即座に価値として還元されている実感を抱けるようになりました。
2026 年は、自社が提供する価値を再構築することが重要です。最終的な成果だけを強調するのではなく、そこに至るまでのステップを価値として提示する視点を持ってください。カスタマージャーニーを細分化し、顧客が即座に満足感を得られるマイルストーンを設計することが求められます。2026 年に勝ち残るのは、今この瞬間に、目に見える進歩と小さな喜びを提供できる企業です。
AI が顧客行動を変える
人々の行動は、AI によって根本的に再構築されつつあります。単なる事実確認から、より動的な探索へと移行しています。人々は「AI モード」のような対話型の検索体験を通じて、テキスト、画像、音声を組み合わせながら、これまでにない深さでトピックを掘り下げています。
2026 年には、検索バーはよりクリエイティブなキャンバスへと進化するでしょう。人々は Gemini の「Nano Banana」のようなツールを使って、検索クエリを具体的な画像として表現し始めており、AI に対して、入力するテキストだけでなく、何を意図しているかまで理解することを期待するようになりました。
企業側にも、より具体的で視覚的な回答を提示することが求められます。IKEA の AI ツール「クリアティーヴ」はその好例です。ユーザーは自分の部屋をスキャンし、部屋の中の家具を IKEA 製品に置き替えてシミュレーションできます。
マーケターは「生成エンジンの最適化(GEO:Generative Engine Optimisation)」という考え方に適応する必要があります。求められるのは、生成 AI による対話型の検索に寄り添い、信頼できる人間中心のコンテンツを充実させることです。特定のキーワードに入札して単発の広告を出すだけの時代は終わりました。これからは AI を活用した検索キャンペーン(英語)で成果を最大化するために、質の高い素材を供給する必要があります。
このアプローチによって、2026 年以降、企業は単なる発見プロセスの案内役にとどまらず、顧客の次の素晴らしいアイデアを生み出すための不可欠な要素となるでしょう。
若年層はクリエイティブへの参加を求めている
現代の若年層は、デジタルネイティブなクリエイターとして育ってきました。企業が提供する物語をただ消費するのではなく、自らも制作に参加し、リミックスしたいと考えています。若年層が求めているのは「クリエイティブマキシマリズム(英語)」で、クリエイターたちがこの参加型のムーブメントを後押ししています。
ホメロスによる古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』を原作とするミュージカル作品『EPIC: The Musical(英語)』を例に挙げましょう。この作品の作曲家であるホルヘ・リベラ=へランス氏は、キャスティングの意見を募ったり、ファンが作ったアニメーションをミュージックビデオとして採用したりすることで、ファンコミュニティの中に当事者意識を醸成しました。その結果、YouTube には現在、この作品に関連する動画が 5 万本以上投稿されています(*2)。
こうした「自分も参加したい」という人々の期待に応えられるかどうかが、企業が生活者にとって「自分に関係があるもの」だと感じてもらうための新たな基準になりつつあります。成功は、もはや、キャンペーンのリーチだけで決まるものではありません。その企業の世界観を構築できているかどうかが問われています。
2026 年、企業はこうしたコミュニティ特有の流儀を学ばなければなりません。YouTube クリエイター(英語)のような、コミュニティに精通したエキスパートと連携し、ファンとの架け橋を築くことが有効です。また、キャラクター、音声、アセットなど共創のための素材を人々に解放し、人々に物語の創作を委ねることも重要でしょう。
「Veo 3.1」のような AI による動画生成ツールを使えば、視覚的に複雑でインパクトのある動画素材を大量に制作できるようになりました。これにより、大小問わずあらゆる企業が、コミュニティの共創エンジンを動かすための燃料を手に入れることができるようになります。
2026 年は、ブランドストーリーを一方的に語るのではなく、人々と共に世界を共創しましょう。そうすることで、企業は「借り物の注目」を集める段階から、「自社へのロイヤリティ」を獲得する段階へと進化できます。
「ノスタルジックなリミックス」の台頭
世界が混沌とする中、人々が安心感やアイデンティティを求める傾向を強めるにつれて、ノスタルジーは単なる感情から、経済を動かす主要な原動力へと進化しています。実際、ノスタルジックな広告キャンペーンは、Z 世代やミレニアル世代を中心に、好意度を最大 20% 高める(英語)ことが調査で明らかになっています。2026 年のチャンスは、単なる過去製品の再販や再放送ではなく、知的財産(IP)の戦略的な「リミックス(再構築)」にあります。
こうしたノスタルジーを刺激する手法は、マーケティングの現場でもすでに広がりを見せています。バックストリート・ボーイズの名曲を起用した Airbnb の広告(英語)や Louis Vuitton が村上隆氏と約 20 年ぶりにタッグを組んで復刻アイテムを発売した事例(英語)などもその一例です。
2025 年に最も印象的だったのは、任天堂による新型ゲーム機のキャンペーンです。1991 年のテレビ CM に出演していた俳優のポール・ラッド氏が、同じ役で再び登場したこの施策は、新商品を売り込むだけでなく、感情を揺さぶりました。34 年の時を超えて、複数の世代に同時に共感を呼び起こすことに成功したのです。
2026 年の成功の鍵は、古い記憶から新たな記憶を生み出すことにあります。まずは自社のアーカイブを棚卸しして、昔のロゴや往年のジングル、愛されてきた製品など、最も強力なノスタルジックな資産を見つけてください。次に、同じオーディエンスや時代に共鳴する IP を持ったパートナーを見つけます。そして、単に過去の広告を再放映するのではなく、パートナーとの協業によって過去をリミックスし、現代のオーディエンスにとって新鮮かつ親しみやすい新たな体験を提供しましょう。
サステナビリティの未来は実感できる価値にあり
2026 年、漠然とした包括的な企業のサステナビリティ宣言の時代は終わりを迎えます。マーケターは、具体的な行動を求める人々や規制当局からの圧力が強まる一方で、一歩間違えれば「グリーンウォッシング」と批判されかねない環境の板挟みになっています。
2026 年をリードする企業は、「具体的な価値の提供」に焦点を移すことで、この課題を乗り越えていくでしょう。「地球を救う」といった漠然としたメッセージを掲げるのではなく、耐久性やエネルギー効率など、具体的で測定可能な、製品そのものの特性としてのサステナビリティを強調する必要があります。
たとえば、リトアニア発祥で古着の二次流通マーケットプレイスである Vinted と YouTube クリエイターのエマ・ウィンダー氏によるコラボレーション(英語)は、節約や自分らしいスタイルを見つけるといった、人々の本質的なニーズを起点としています。サステナビリティを前面に打ち出すのではなく、持続可能な選択がもたらす個人的なメリットに焦点を当てたこれらの動画は、シリーズ累計で数十万回も視聴されました。
このアプローチは、サステナビリティを犠牲や割高な選択ではなく、人々にとって「スマートで具体的なメリット」として再定義するものです。企業の美徳を誇示することなく、 製品の価値を 1 つずつ証明していくことこそが、2026 年に信頼を築くための誠実な方法です。
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