US 版 Think with Google が 2025 年8 月に公開した記事を基に日本語に翻訳し、編集しました。
AI 時代、企業の成長戦略の要として CMO に注目が集まっています。企業の将来が AI 投資の成否にかかっている今、組織の変革を適切に推進すること(チェンジマネジメント)は重要な課題であり、大きなチャンスでもあります。
家具やインテリア用品の大手 EC サイトを運営する Wayfair のポール・トムズ CMO は、データに基づいた厳密な検証を行うことで、顧客体験、効果測定、クリエイティブの各領域で、リスクを恐れずに大胆な施策を実行してきました。一連の取り組みと、そこから得られた重要な教訓を、マーケティング責任者に向けて紹介します。
AI を活用したキュレーションで顧客体験を再考する
巨大 EC で知られる Wayfair は、顧客の住まいに関する商品選びのプロセスをさらに良いものにするために、よりパーソナライズされた顧客体験を実現する AI ソリューションを導入しました。
同社は 2025 年 6 月、自社アプリに AI 機能を導入しました(英語)。ユーザーはアプリのタブから、AI が生成した写真のようにリアルな部屋のデザインを閲覧でき、インテリアのヒントやアイデアを得ることができます。Wayfair はそのインスピレーションに合う商品を提案することで、シームレスな購買体験を提供します。
インテリアのヒントを得られるように、Wayfair は商品販売ページやアプリのタブに、AI が生成した画像を掲載している。
Wayfair は、アプリの顧客体験をさらにパーソナライズするために、Gemini を活用して 3,000 万点を超える膨大な商品カタログを改良しました。トムズ氏は、フィオナ・タン CTO と協力し、マーケティング側からテクノロジーチームの技術革新を支援しました。
- ポイント:AI を活用したパーソナライズは、顧客の抱えるさまざまな課題を解消し、より包括的でそれぞれの顧客に寄り添った体験を提供します。そのためには、マーケティングチームと、AI の導入に意欲的な他チームとの密な連携が欠かせません。
次の大きなトレンドを取り入れ、成果を測定する
トムズ氏は、商品の購入が将来的にはヘッドホンやスマートグラスなど、さまざまなデバイスを通じて行われるようになると予想しています。そうしたウェアラブル端末では、購入ボタンに代わる操作方法が必要になるでしょう。
「Wayfair は、最先端のコンシューマーテクノロジーと共に発展してきた企業です。それが私たちの出発点であり、強みです」とトムズ氏。「今は大規模言語モデル(LLM)やエージェント AI について議論しています。私たちがどうすれば先駆者になれるか、戦略的に、私たちはその地位を確立したいと考えているのです」
しかし、先駆者になるということは、決して無謀な挑戦を意味するわけではありません。トムズ氏は CMO に就任する前に、Wayfair が展開する複数のブランド事業を率いていましたが、当時を「グロースハック」の時代だったと振り返ります。現在の課題は当時とは異なるもので、より複雑です。カスタマージャーニーが無数の新たなチャネルに広がる中、トムズ氏は効果測定の戦略を定義することを「10 億ドル規模の課題」と表現します。
従来の指標だけでは不十分ですが、トムズ氏は、AI を使えば分断されたトラフィックの流入元の統合という課題をより簡素化できると確信しています。トムズ氏のチームは、AI を活用し、ファーストパーティ データに基づいて施策の純粋な増分効果を示すシグナルを追跡することで、何が実際に効果的なのかを、より明確に把握しています。
- ポイント:これまで培ってきた先駆者としての直感と、現代のデータに基づいた厳密さを両立させる必要があります。複雑化したマーケティング環境において、AI は単なる顧客体験のためのツールではなく、分断されたデータを統合し、事業成長の原動力を特定するための重要な要素です。
サイロ化を打ち破り、クリエイティブチームに権限を与える
グロースハックで得た名声に恥じぬよう、トムズ氏は、クリエイティブチームとメディアチームの分断という、従来のマーケティング課題に正面から取り組みました。同氏は、このサイロ化を大きな障害と捉えており、クリエイティブチームが自分たちの制作物の実際のパフォーマンスからかけ離れすぎていると指摘しました。
そこでトムズ氏は、クリエイティブチームに自分たちの制作物の成果報告の責任を担ってもらうことで、チームの権限を強化しました。
以前は「クリエイティブは何枚ものブリーフに埋もれてしまい」成功はステークホルダーの満足度で測られていたと、トムズ氏は説明します。「もしもクリエイティブが最も重要で、広告効果の最大 70% を占めるのであれば、それを制作したチームがその場に座ってハンドルを握っているべきなのです」。
当初は不安そうだったクリエイティブチームでしたが、自分たちの取り組みが事業成果に直結するのを見て、すぐに新しい責任を果たすことに意欲的になりました。AI を活用して商品のトレンドを特定し、それに合ったイメージを生成することで、より素早くテストを繰り返せるようになったのです。
この新しいモデルによって、日々の改善につながる継続的なフィードバックの循環が生まれ、Wayfair は自信を持ってメディアに投資できるようになりました。トムズ氏は、このモデルをより幅広いサービスに適用していく予定です。
- ポイント:広告効果を最大化するには、クリエイティブチームとメディアチーム間の壁を取り払うことが重要です。クリエイティブチームに成果に対する責任を担ってもらうことで、オーナーシップ文化が育ち、事後分析だけに終わらない、日々の改善につながるフィードバックの循環が生まれます。
トムズ氏のリスクを恐れないアプローチとそれに伴う厳格な検証は、今日の CMO に求められる革新的なマインドセットを示しています。同氏の信条はこの言葉に集約されます。
「何が起こるかを恐れて前に進まないよりも、まずは進めて、必要ならやり直す方がずっといい」