この記事では、2026 年 1 月に行われた Agency Excellence Awards にて登壇した、顧客体験プラットフォーム「KARTE」を展開する株式会社プレイドの鈴木剛氏、武石啓二朗氏が、マーケティングにおける AI の台頭と、ファーストパーティ データの重要性の高まりについて解説します。
ファーストパーティ データとコンテクストが切り拓く、顧客理解とマーケティングの未来
株式会社プレイドにおいて、ファーストパーティ データの活用により広告配信最適化を実現する「KARTE Signals」のプロダクト責任者である武石啓二朗氏、同社のデータ AI 専任チーム「Data Mind(データマインド)」ビジネスサイドのリーダーを務める鈴木剛氏は、これからのマーケティング担当者が果たすべき役割と、目指すべき「顧客理解」のあり方について話します。
プレイドは 2015 年に KARTE 正式版の提供を開始。多くの企業に利用され、そのカスタマー データ基盤は国内最大級にまで拡大しています。
また、同社は 2025 年に顧客コンテクスト(顧客の文脈や背景)を自動理解する AI「Context Lake」の提供を開始。構造化、非構造化を問わず社内のあらゆるデータから顧客コンテクストをデータとして自動抽出、蓄積し、マーケティングや営業、戦略策定など企業活動の幅広い領域で活用可能にしています。
鈴木氏は、現在のマーケターが直面している厳しい外部環境の変化を指摘。昨今は、人口減少や情報量の爆発的な増加などによって、商品やサービスがコモディティ化(同質化)し、差別化が難しくなっています。AI の登場で、この流れはさらに加速しているのが現状です。
「企業にとって、単に “コンバージョンだけを増やせばいい” というステージは終わりを迎えました。代わりに、コンバージョンの “質” を強く求められる時代へと変わっています。これが今のマーケティングにおける大きな前提です」
「質の追求」 において、武石氏は自身の担当する広告領域の視点から、具体的な課題として、対象となる顧客の数の減少という外部要因によって、CPA(獲得単価)を下げようとしても下がりきらないことを挙げます。
「今までと同じ時代ではないからこそ、できるだけ事業成果に近い指標を測定し、それに伴った意思決定ができるかどうかが問われます」(武石氏)
AI 時代の勝機は「コンテクスト」にあり
では AI 活用において 「質の高いファーストパーティ データ」とは、具体的にどのような状態を指し、それがなぜ競争優位性に繋がるのでしょうか。
武石氏はデータ活用において最も重要なのは、数字の裏側にある「顧客のコンテクスト」をファーストパーティ データを活用して読み解くことであると述べました。
たとえば、Google のカスタマー マッチ(企業の持つ顧客データを、 プライバシーに配慮した形(ハッシュ化)で Google のユーザーデータと照合し、精度の高いマーケティングを実現する機能)で既存顧客リストを連携する際、会員のプロフィールを渡すだけでは不十分です。その会員が「過去に何を買ったのか」「最近特定のブランドサイトを頻繁に訪れている」といった文脈を連携させて初めて、プラットフォーム側の AI もシグナルを正しく解釈できるようになります。
実際、あるアパレル EC の支援事例では、顧客単価や LTV(顧客生涯価値)が高いというデータだけを機械的に連携していたところ、実はそれらの顧客はブランドのファンではなく、セレクト ショップのバイヤーだったことがあったといいます。数値上の「優良顧客」という情報だけでは、本来狙うべきファン層ではない対象も、AI が探してきてしまうわけです。
加えて、鈴木氏は「データを顧客軸で線としてつなぐこと」の重要性を指摘。データを「線」で捉えるためには、顧客コンテクストを企業活動のあらゆる場面で共通して使用することが可能なコンテクスト データとして構造化し蓄積していく必要があります。
旅行を例にすると、ある顧客がリゾート地の宿を予約した場合でも、一人で旅行をしたいのか、家族旅行なのかで意図が異なります。さらに、同じ「一人で旅行」する意図でも、毎回新しい宿に変える人と、年に数回定期的に来る人の文脈は違います。
「こうした文脈を読み解くことが、AI 時代には可能になる」と鈴木氏。「自社独自のファーストパーティ データがあるからこそ差別化でき、競争力が生まれます。ファーストパーティ データの活用は、コモディティ化の罠に陥らないための唯一の手段になるのです」
顧客理解のデモンストレーション : AI エージェントの例
顧客のコンテクスト データがあると、実際に AI 活用がどう変わるのでしょうか。鈴木氏は、あるオンデマンド映像サービスにおける、自動レコメンド機能の例を挙げます。
ユーザーが「今の作品はおもしろかった」と感想を述べても、コンテクストがまったくなければ、AI は次のレコメンドとして「人気作品からご紹介します」としか言えません。とはいえ AI がユーザーの好みを把握するために度々質問を繰り返すのも、顧客体験が損なわれます。
一方で「このユーザーはアクション映画が好き」「受賞歴のある名作を好む」といったコンテクスト データ(視聴履歴データ)があると、AI は「最近は 90 年代の SF 映画や受賞歴のある名作に関心がおありのようですので、そのあたりからおすすめしましょうか」と提案できます。
「推論だけで AI が提案すると、顧客には的外れな意見にも感じられ、逆に顧客が離れていくリスクもあります。正確なデータに基づくコンテクストが、持続的な購買行動を支えます」 (鈴木氏)
組織の壁を乗り越える、経営層のコミットメント
多くの企業がデータの重要性を理解しながらも、活用まで至らないケースが多いのも事実です。鈴木氏は、現場が直面する壁として「組織の分断」と「完璧主義」を挙げます。組織の中でデータが分断されているため、KPI がそろわず、混乱が起きているのです。
鈴木氏自身が事業会社に所属していた際、広告のコンバージョンは上がったのに、社長から「売上が上がっていない、利益はどうなのか」と問われた経験があるそうです。
「現場がいかにビジネス課題の本質を理解し、経営と同じ目線で動けるかが重要です。また、“完璧にデータをそろえないとスタートできない” という思い込みも、活用のスピードを遅らせる要因になっています」 (鈴木氏)
この壁を乗り越えた成功事例として、武石氏は「3COINS」などを展開する株式会社パルの事例を紹介。パルでは 「OMO 戦略」を掲げ、EC だけでなく店舗への計測や SNS の影響までを横断的に可視化しています。マーケティング組織だけでなく、店舗の現場の方々まで含めた全社的な活動として展開しているのが成功のポイントだと解説します。
CPA の数値だけでの勝負は限界を迎えています。ビジネス課題に対し、いかに自社独自のデータを使いこなし、コンテクストを読み解いて価値を出すのか。AI の学習能力が高い今だからこそ、その手前のデータの扱いが問われています。
武石氏、鈴木氏の根底にあるのは「データは数字の羅列ではなく、ユーザーの行動の背景を読み解くためのカギ」という発想です。ファーストパーティ データからコンテクストを読み取ることが、顧客理解を深め、組織の壁を超えて事業成長へとつながるカギの一つとなるはずです。
総括
プレイド武石氏・鈴木氏の話は、「AI がもはやビジネスのインフラに進化している」という、一つの事実を物語っています。事実、AI を使いこなしている企業は、競合を圧倒し始めており、AI を使いこなしている業界はかつてないスピードで変革が起きています。
こうした時代において、マーケティング活動のスコープは、メディアの運用にとどまるのではなく、ビジネス成果に貢献することまでを見据えることが重要です。その第一歩となるのが、データ計測だと考えています。
AI にはデータが欠かせないものであり、中でもファーストパーティ データは非常に価値のあるものです。
Google としても、「データの充実化」というソリューションを提供し、Google タグ ゲートウェイ をはじめとしたファーストパーティ データの計測や蓄積をより精緻に行っていただけることを目指しています。
Google カスタマー ソリューション 代理店営業部 営業本部長
楊敏 (Min Yang)